シュンの日記なページ

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懐かしのススキノ

 ひさびさにゆっくりとした日曜日を迎える。昨日、二回にわたって洗濯をしたので、今日は家中の掃除機がけである。暑い一日になるのかなと思いきや、午後には雨が降り出し気温が一気に低下。寒くなった。まるで体調を崩せといわんばかりの極端な天候だ。こういう日々を味わっていると、つくづく北海道に帰りたい。

半端者(はんぱもん)―ススキノ探偵シリーズ (ハヤカワ文庫JA)

 さてその北海道は札幌のススキノ探偵シリーズ最新作『半端者(はんぱもん)』読了。『バーにかかってきた電話』が映画化されることになったため、その前日譚としての本書は書かれたようだ。
 ススキノ探偵がまだ北大に籍を置いている若かりし頃の物語なので、昔のこのシリーズはそういえば回想譚として書かれていたということを思い出した。
 ローレンス・ブロックがマット・スカダーのシリーズで唯一『聖なる酒場の挽歌』を回想として描いたように。酒飲みのハードボイルドは、ノスタルジックな過去話がよく似合う。
 探偵はまだ高田の空手の手ほどきを受け始めたばかりで、シリーズの住居へと立ち退きを迫られるアパートから引っ越しをするところだ。桐原と知り合い、桜庭と知り合うシーンが、本書では印象的だ。
 ススキノの闇に明るいような顔はしていても、まだまだ若く失敗に満ちている。痛い目に遭うことも多い。そんな彼を闇の世界から鍛え上げてくれる二人の印象的なヤクザ者は、その後の作品での長いつきあいを思うと、その出会いさえ何かインパクトのあるものでなくてはならない、とでも作者は考えたのだろう。このあたりはとても丁寧に描かれているように思う。
 事件らしい事件はさして起こらない中で、唯一フィリピーナの失踪という謎だけがススキノ探偵の前に突きつけられるが、事件というより恋物語なのかな。とすると、やはり事件らしいことは起こらないまま終わってゆく一冊である。
 それでも普段以上に重たさすら感じるこの作品は、作者の筆が重かったとあとがきでいわれるように、シリーズの始まりの物語だからこその責任をどっと背負っている。いつも以上に力の入った、読み応えのある一冊となっている気がする。