どこにもある永遠
元の住人が死の床に瀕しているとき、空っぽになって早や2年になる家の鍵を開ける。
今度ここを手入れして住んでくれるというOさんを伴って、家の中を一応案内した。
まだ仏壇も写真も、弟の部屋もそのままに遺っている。友達じゃないと貸せる状態じゃないから、ちょうどいいのかもしれない。
昔、自分が子供部屋にしていた部屋、プレハブ、柿の木、愛犬のいた庭……。ただの家ではなく、ぼくは中二から大学一年まで住み、そしてある日自活を決意して後にした家だ。
一度、就職のときに戻ったものの、やはり親兄弟との生活に馴染まず、すぐに出てしまった。
その後、弟と母が十年を住み、さらに弟が亡くなって、脳溢血に倒れてからの母は、片麻痺で、独りでこの家に20年を過ごした。
ぼくは妻子を連れてときどき北海道からこの家を訪れた。
息子に母が色鉛筆をくれたのを覚えている。絵が好きな息子は喜んだ。
その母は今、命の瀬戸際を生きている。
家は死にゆこうとしているところだったが、それを救おうとしてくれる友達がいる。
いろいろなものが時に食い荒らされつつあるが、時は同時にいろいろなものを生み出し、育んでくれる。
どこにもある永遠。