シュンの日記なページ

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スキー・ミステリー・ナウ

白銀ジャック (実業之日本社文庫)

 東野圭吾『白銀ジャック』読了。文庫で新刊だそうな。実業之日本社文庫の創刊に伴う目玉作品なのだろう。80万部を突破する勢いだというので、わざわざハードカバーでワンステップ置かなくても、こういう売れっ子作家の本に関しては、作者にとっても読者にとっても、どんどん文庫新刊の動きが出てくれると財布の紐的には嬉しい。でも本の装丁、堅い表紙を書棚に並べたい、といういわゆる蔵書マニアにとっては文庫は安っぽくって駄目、っていう意見もあるのだろうな。
 ともかく、珍しいことに、今、すっかり冬の娯楽としては廃れた感のあるスキーを使ったミステリーである。全編これスキー場が舞台。そう言えば、今年の初めにもこの作者は『カッコウの卵は誰のもの』という天才女子スキーヤーを描いたミステリーを書いているのだった。作者なりにスキーというウィンタースポーツへの何らかのこだわりがあるのだろうか。
 古くは生田直親というスキー・ミステリ専門の作家がいて、ぼくは彼の冒険小説要素の高いミステリーを読み漁った。彼のスキー技術本さえも読んだ。日本の名だたるスキー場や山岳スキーまでを扱ってヒマラヤを舞台にしたスケールの大きなスキー・サスペンスに手に汗を握ったものだった。

雪のコンチェルト (講談社文庫)

雪のコンチェルト (講談社文庫)

 
逆発想のスキー術 (徳間文庫)

逆発想のスキー術 (徳間文庫)

 
銀嶺の彷徨―スキー・バム (徳間文庫)

銀嶺の彷徨―スキー・バム (徳間文庫)

 当時、日本は、スキーブーム真っ盛りだった。かくいうぼくも、まだ高速道路も十分整っていなかった信越への国道を真夜中に6時間も7時間も運転してホームゲレンデであった信州のスキー場に毎週のように通ったものだった。
 そういう時代を駄目にしたのが何なのかわかってはいないが、家族で楽しむスキーから、二十歳前後の若者の間でスノーボードが流行り始め、最初は制限されていたものの、スノーボード混合のゲレンデが増えたことにより、雪上のスキーヤー人口は休息に減少した。スキーヤー少子化とでも言おうか。
 スキー人口の減少に対してスノボ人口は青天井ではなく、伸びもストップした。スキーに較べるとスノボは取っ付きが悪く、すぐにスラロームに移れないばかりか、エッジを利かせてしまうゆえの危険な転倒が多く、尻込みしてしまう人も多い。またエアをやらずスラロームを楽しむだけとなると、若干単調であり、どうしてもスキーほどの技術的奥行きやすべりの多様さが求めにくく、スノボ人口はファッション感覚で入ってくる人たちと一部のマニアといった限られたものになる。そんな印象を少なからずぼくは持っている。
 本作品は、経営難に直面するスキー場の問題をミステリーの軸に据えながら、ゲレンデに爆弾を仕掛けられ脅迫を受けるスキー場スタッフたちの活躍を描くスリリングで、ノンストップなスキー娯楽ミステリーである。何も考えずとも楽しめる小説なのだが、どうしても背景にあるスキーという文化の危機ばかりが浮き彫りにされてしまう点など、かつてのスキー世代にとってはとても気になる要素の高い作品だ。
 とは言え、冬には冬のスポーツを、そしてそこにミステリーを。そうした健全な感覚で、一級の娯楽小説に取り組めることの幸せを久々に味わえたことも確かである。