シュンの日記なページ

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夕日の滝、ブルーグラス・フェス初日

 キャンプ支度に多くの時間を費やしたおかげで睡眠時間を削り切ってしまい、人生において珍しいほどの深い睡魔に引きずり込まれたぼくは、見事に寝坊をしてしまった。
 起きた時点で、待ち合わせ時刻の9時! 即座に携帯に電話を入れ、謝罪。すぐに用意をして車でさいたまを飛び出す。夕日の滝に到着したのは昼時間である。あーあ。
 ともかく車から荷物を運び出し、テントを立てて、落ち着く。駐車場をやっている農家の人は音楽会の参加者ですか? と念を押す。ああ、地元ではこれのことを音楽会と呼ぶのか。駐車場の向かいには猪の毛皮が沢山干してある。随分出るんですね、肉は食うんですか? 途端におっちゃんは満面の笑みになって美味いぞお、と自慢げに胸を張った。
 さてブルーグラス・フェスのムードについては、情報を事前に集めるだけ集めて予測してはいたものの、やはり見ると聴くとでは大違い。テントに集まった人たちは楽器を持ってあちこちで演奏をしている。キャンプ場の中央を流れる浅瀬だけの川では子供たちが水浴びをしていて、その親である普通のキャンパーたちが、異様なものを見るような眼で、楽器を手に次々と集合しつつあるブルーグラス集団を横目で見つめるのだった。

 茅ヶ崎のぼちぼちという店が生ビールの店を出したりしている。他にも楽器店や、CD店やTシャツ店のテントなど、皆出張してきている。

 経験豊かなわがバンド仲間は静かな場所を確保していた。寝坊もせず、早起きして。

 続々到着する学生たちは、シュラフと楽器を山と積み上げていた。

 ジャムる機会を求めテントを寄せ合って立てるブルーグラスな人々。

 

 札幌屋台十八番のとんこつラーメンを作って、皆で昼飯とする。朝から来ているのはバンド主催者のユキヒロと、別サークルだが同じ大学の三期上であったというFさん。Fさんは、某楽器店で延々勤務し、楽器のメンテナンスをしているらしい。バンドではギターのサポートをしてくれる予定。
 この世界では名の売れた職人らしく、プロを沢山知っているので、今日も弦楽器のプロであるTさんをぼくたちの幕場に誘い込んでいる。「幕場」は天幕の場という意味の山用語だが、「墓場」に似ているので、今、変換してみてちょっとどきっとした。墓場に誘い込むなんて、いくらなんでも洒落にならない。
 昼食後に、滝を見に行く。行者たちが修験道に使うだけあってさすがに大振りの滝だ。

 最新のドラマで主演している綾瀬はるかがパワースポットとしてこの滝へ続く森を歩いていたのだと、ユキヒロが教えてくれる。滝の名前は別な名前にして架空名の看板が滝の前に立てられていたそうだ。
 と言ってサイトを調べる。『ホタルノヒカリ2』第七話のページに「龍眠之滝」って看板の立つ写真がありました。

 ユキヒロは家族を迎えに一旦横浜に戻り、夕方、弦楽器奏者のTさんが角ビンとフラット・マンドリンを手にして登場。昔、学生時代に宝塚で行われていたブルーグラス・フェスに通って以来のアウトドアでブルーグラスだそうで、Fさんに無理矢理誘われて何十年ぶりの野外ライブに来たそうである。弦楽器は変わったものであれば大抵はこなすのだそうで、バンジョーシタールなど何を弾いても美しい音を出すとはFさんの事前情報。必ず誰もが何かの曲でTさんの演奏を聴いているはず、と後のステージでMCが紹介した通りグレート・プロフェッショナル・ミュージシャンなのである。でもTさんは控えめで謙虚でとても礼儀正しく、ぼくなどは学ばなきゃならないところが山ほどあるような人間性の豊かな人であった。
 17時過ぎ頃よりステージ開始。大学のブルーグラス・サークルが最初に沢山登場する。東北大、名大、北大などなど。学生たちの楽器の上手さに愕然とする。女子のフィドルやベースに関しては、元はクラシック畑などの基礎があるのだろうなあと想像されるし、男の子たちも今どきにはあまり見えない普通の昔のような地味でよい子に見えるのだった。
 対して、それに負けないほど数多い初老のバンドたちはどちらかと言えば、ちょい悪オヤジが点在。もっとも銀行員にしか見えないような優しそうなオジサンたちも沢山いるのだけど、ステージでは、学生たちよりも不真面目でしかし永い楽器歴がもたらす高等な技術をゆとりを持ってこなすだけの楽しさに満ちていた。
 明日はこのステージに立つんだなあ、と緊張感を持って、ビールを口に運ぶ。
 そうそう、夕食はぼくの用意した茄子と春雨のオイスターソース炒めや石巻の笹蒲鉾、Fさん用意のレトルト・キーマカレーなどなど。キーマカレーってのは外れがあんまりないんだよ、とはFさんの自信ありげな言葉。
 ユキヒロ一家がやってきて、夜に向けさらなる活気を呈する。夜中に暗闇の中から現れたバンジョー弾きが二人、荒野の決闘でもするかのように、ユキヒロとともに三人で向かい合うと、いきなりフラマンを交えての4人でのジャム・セッションが開始された。これがブルーグラスの世界の特色らしい。
 少ないコード、決まった楽曲、それぞれの楽器のフレーズ自慢、そして長く続く人間関係、名前は知らなくても顔を知っている、というような人たちがこうして集まっては、弾いてゆく。
 そう言えばトイレに行ったFさんがなかなか帰ってこないと思ったら、夜中のステージに急に出演することになったらしい。そのステージが、前述したグレート・プロフェッショナル・ミュージシャンなのだった。にしうみ・たかうみという最近CDを出した人のようである。フォスターのクラシックの名曲に日本の歌詞をつけたりして美しい演奏だったので、きっとTさんのマンドリンが合うのだ。
 最後は朝の3時まで起きていた。テントに引っくり返ると、気絶するように眠りに着いた。これが初日のできごとである。