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『無理』

 無理  

 奥田英朗『無理』読了。『最悪』でインパクトを残し、『邪魔』はあまり印象に残らず、続いて精神科医・伊良部シリーズでいきなり一般大衆向けのヒットを開始し、エンジンがかかったこの作家、初期のカラーに戻したかったのか、この『無理』は『最悪』後、作家がその実力を披露する力作という位置づけなのだろう。最悪で見せた悲劇とも喜劇とも取りきれない奇妙な運命がある一地点に向けて終結してゆくプロットの面白さを、さらに余裕を持って描いたところの自信作みたいに見える。
 『最悪』はいわば、映画『鮫肌男と桃尻女』にどこか繋がる部分があるかと思う。オフビートな乗りもまさにそのまま。そしてこの『無理』は、映画『クラッシュ』に触発されたのではと思われるストーリー。最近、外国映画でも『クラッシュ』や『バベル』のような、モジュール型の構成が目立つようになってきて、その先駆けはタランティーノの『パルプ・フィクション』だと思うのだけれど、小説で言えば連作短編集をもっと自由構成に置き換えたようなものだ。
 『無理』は五人のわけありの男女がそれぞれの独自なストーリーを走り続ける物語なのだが、次第にそれぞれの物語が接触をし始める行程が何とも面白い。最後に一つの時間一つの場所に全員が揃って出くわしてしまうのも、『最悪』の基本コンセプトを受け継ぐもの。奥田英朗という作家の面目躍如という作品かもしれない。
 ちなみにぼくは伊良部シリーズは『空中ブランコ』一冊だけで断念した口。連作短編集というつくり、古臭いコメディを見ているような型に嵌った動き、それらを見るからにいかにもマンガ家にでも原案を提供して『ビッグコミック・オリジナル』にでも掲載した方がよさそうな程度に思えたからだ。