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極北の町

 海堂尊『極北クレイマー』読了。

 極北クレイマー

 うわあ、思い切り夕張がモデルではないか。昔、医療関連の仕事をしていた頃、ここの市立病院に行っている。老朽化した建物、純白のリゾート・ホテルからいくらも歩かない場所に、病院が古びて傾いており、その向うに人っ子一人歩いていないかつての繁華街が広がる。映画の看板が締められたシャッターの並ぶ商店街に異様に移る。でも夕張には映画祭があったのだ、と少し慰められた記憶がある。
 さらに先には大夕張というかつて栄えたが、これからダムの底に沈んでゆこうとしている町があり、そこをバスが通ってゆく。バスの向うに廃校となった小学校。道路を渡る歩道橋(こんなものに意味があるのだろうか、とぼくは感じた)に、「想い出をありがとう」の横断幕が掲げられており、ぼくは震えた。
 カメラを構え、廃屋を撮影して回ったのだった。
 もう10年以上も前のことだ。
 ある休日には夫婦で、幼い息子をつれて、石炭の歴史村の野外ステージで何とかレンジャーの出し物を、裏山から眺めた。入場料がもったいなかったので。そういう家族連れが何組か見られた。
 その後たくぎんが破綻し、石炭の歴史村も、夕張市も破綻してゆく。信じられないスピードで。
 そんな町の、病院を舞台に「ジーン・ワルツ」で噂だけ登場した三枝医師の姿があった。さらに移転した極北大医学部の救急部にはあの『ジェネラル・ルージュの伝言』の速水の姿が。さらにテレビ画面の向こうではチーム・バチスタの手術シーンが。ああ、海堂尊の世界は時間軸に沿ってではなく、ときには遡ったりしてこうして複雑に絡み合っているのだな。
 本書でも何人かの印象的な女性たちの姿が残る。姫宮、西園寺さやか、そしてとってもかっこいいのが並木看護師である。いつもながらいい世界だった。そして幻のように瞼の裏に甦る夕張が、ぼくの心にはずっと在り続ける。