シュンの日記なページ

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ハードボイルド・コントラスト

 昨夜『高城 高選集 1 墓標なき墓場』読了。霧の街・釧路がハードボイルドの舞台として格好であった時代。太平洋炭鉱が海底から石炭を掘削し、サンマ漁で港湾は賑わい、街のいくつもの映画館で裕次郎がかかり、繁華街は現在の歌舞伎町のように賑わっていたという。
 夜の闇の中で船員同士の喧嘩がマキリによる殺傷事件に変わっても、日常茶飯のこととして警察もろくすっぽ調べもしなかったという。流れ者やヤクザ者が巷に溢れ返っていた昭和33年という時代。
 著者は北海道新聞釧路支局に勤務しており、本書の主人公は網走支局に追われた支局長・江口が、釧路での連続殺人事件を探りに、3年前の事件を掘り起こそうと旅に出るところから始まる。
 根室や花崎といったさいはての漁港の描写、釧路の太平洋側にある春採湖で出会う少女との束の間のロマンティックな一幕など、映像化されてもいいような生粋のハードボイルドである。
 大藪春彦よりも先に日本にハードボイルドを持ち込んだ作家だという意味がよくわかる、著者唯一の長編作品。

 高城高全集〈1〉墓標なき墓場 (創元推理文庫)

 今日は、現代のハードボイルドの若手旗手とも言われてきた大沢在昌の新作『黒の狩人』を読み始める。新宿を舞台にした組対課刑事・佐江のシリーズは『北の狩人』『砂の狩人』に継ぐ3作目。
 こちらは現代の国際化した大都会を舞台にして、質の変わった闇を描き、そこを漂流する佐江刑事、正体不明の中国人通訳・毛、外務省の美人職員・野瀬由紀の三人による中国人連続バラバラ殺人の裏側に潜む国際謀略を抉り出す。被害者に刻まれた刺青の謎を追う面白さ抜群の小説である。
 佐江はそうした都会のなかでは、猪突猛進型のいわゆる不恰好な中年刑事である。妻に逃げられ外食三昧の独身生活を送る佐江のねぐらに転がり込んできた中国人通訳・毛とのコンビが化かし合いのようでもあり、情があるようでもあり、小説の軸として興味深い。何より仕事熱心な刑事が外務省に代って、リアルな聞き込み捜査で、大掛かりな国際的事件を解決に導こうとするスケール感がたまらない。

 黒の狩人〈上〉

 新旧ハードボイルドの旗手を見比べてそのコントラストを娯しむ、というのもまんざら悪くない一日であった。