渡島の南端へ
松前でじっくり過ごすのは初めてである。途中、雨があられに変わったところで、ノーマルタイヤのぼくは引き返そうかと一瞬思ったが、まあいいやとの思いで先を急いだ。
松前に到着してまずは昼飯を食べようと思ったのだが、蕎麦屋が二軒くらいしかないし、あまりに街の趣が江戸時代なので、高そうで二の足を踏む。結局、裏路地の食堂で、お世辞にも美味いとはいえないモヤシラーメンを食べつつ、ああ、コンビニ弁当にすればよかったと、激しく後悔する羽目になった。
↑写真は江戸時代のような街並み。
その後、松前公園に。藩屋敷で誰か知らないが写真家の追悼展をやっているらしいので心を惹かれたが、仕事があるので、城の写真を撮って引き返さねばならなかった。松前の街にもあられが舞い始めていた。
白神岬は、波が荒くて、凄愴な場所だった。伊藤整生誕の地だったらしい。塩谷にある文学碑のようには大事にされていないが、その分荒れ果てた大地に、食い扶持は海からだけという厳しい場所なのだろう。
水平線に眼を凝らすと、渡島大島と小島が見えた。北海道の無人島であり、いつかどうにかして渡ってみたいと思っている島である。不毛の島。志水辰夫が『いつか蜻蛉の旅』で冒険小説の舞台にしてしまった渡島大島。
荒れた海のすぐ向うに津軽半島が横たわる。あまりの近さに驚きを禁じ得ない。
途中から道を間違えて、海沿いに走る道路が断崖絶壁に阻まれ、次第に細くなり、舗装が途切れてしまった。やむなく引き返す。すっかり日が暮れてしまった。
湯の川温泉に宿を取ってある。「ハセストのトリベン」(ハセガワストアの焼き鳥弁当)に加えから揚げやサラダをビールと一緒に仕入れて、部屋には20時過ぎに入る。風呂に入り、オイルマッサージを受けて(術師の女の子はぼくの珍しい名前を覚えてくれていた)、部屋に帰り本を開くと、いつの間にか電灯をつけたまま、眠り込んでいた。