帰郷の約束
母が倒れて半月になる。介護ベッドの傍らに倒れていて、ヘルパーが見つけると、歩けなくなっていた。だからケアマネージャーの判断で施設へ短期入所する以外になかった。
夕方、電話を入れ、ようやくそちらへ行ける都合ができた、と伝える。週末、東京の会議の後の土曜日に、老人ホームを訪ね、その後、実家にゆき、誰もいない築40年以上になる老朽化した木造家屋の有り様を、検討しようと思う。
札幌に連れてきても、お母さんはもうわからないと思う、とケアマネージャーは言うのだが、少しでも意識が明晰になれば、札幌なんかに連れてゆこうとする息子は母は激しく憎むはずである。
だから、弟の眠るふるさとで、母が家族を営んだ場所で、もう誰もいなくなったとしても、想い出だけはふんだんにあるその土地で、暮らさせてあげたいと思う。そんな帰郷の約束を、今日、ようやく決意した受話器越しに、ぼくは口にした。