シュンの日記なページ

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家族の想い出

 残業で会社に残っていたら、プライベイト携帯が鳴る。母の担当ケアマネからだった。
 数日前、母が地元の老人ホームに短期入所したことは既に知らされており、その原因が、訪問ヘルパーが母がベッドサイドで倒れていたのを発見したことにあることも、聞かされている。
 「歩けなくなってしまいました」
 それが先週の電話でのケアマネの最初の言葉だったのだ。
 今日の電話では母が視力を失いかけていることを知らされた。前回は白内障だと言っていたのだが、糖尿病に端を発する網膜症であることを知らされた。母は目が見えなくなるのだと知らされた。
 何か緊急のことがあればお願いしますね、と言われる。
 母は毎年のように枝払いの仕事をシルバーのサービスに頼んだそうで、その請求書が、誰もいなくなった郷里の実家に届いているのではないか、それに、介護保険外の食事代などの請求書も発生している、そんなことを言いにくそうにケアマネが電話線を通して伝えてくる。
 介護の現実、親と子の現実が、いつも日常に重力を与える。あんなにもうるさく剣呑だった母が、おとなしくなってしまったと言う。ベッドサイドで助け起こされたときも自分に何が起こっているのかわからない様子だったという。今も、時おり、どうして自分がこんなところにいるのかと聞いてくるそうだ。だからと言って自宅に戻りたいということも言わないらしい。こうして施設で自分はどんどん駄目になってゆくのかと、聞いてくるらしい。
 北海道の息子さんの近くに移る? とケアマネが提案すると、母は頑固に首を振るそうである。わが弟の、つまり母の第二子の墓がある土地にこだわる。
 弟の残したクラリネットサクソフォンをいつも頭に浮かべている。取りにゆき、それを吹き鳴らしたいといつも頭で考えている。もういい加減実行に移さなくてはならない時期なのだ。
 ぼくの育った四人家族の二人が死んでしまった。最後の一人である母が今、どんどん遠くに離れてゆこうとしている。そう思うと、なおさら弟の残した楽器を取りに戻らねば、と、ぼくは強迫神経症的に、思うのだ。