シュンの日記なページ

当別町スウェーデンヒルズ移住者 ブックレビュー 悪性リンパ腫闘病中 当別オジサンバンドOJB&DUOユニットRIOのVocal&Guitarist ツアーコンダクター 写真 スキー 山 田舎暮らし 薪ストーブ

蝦夷討伐

 クイズ番組を見ていたら、坂上田村麻呂の問題が出てきた。征夷大将軍の「征夷」は「蝦夷(えみし)を征伐すること」という意味だと知って、妻が突然怒り出した。そんなことは学校の歴史で習った覚えは一切ない、そんな大変なことをした人なのか、この人は! というのだ。ちなみに妻は、近所の人の感化を得たらしく、町村大臣が大嫌いだ。妻によれば、町村農場は、アイヌの人たちを虐待して北海道を乗っ取ったのだそうだ。北海道に住むということは、そうした歴史の上に平然と胡坐をかくという歴然とした矛盾でもある。
 さて、話の続きだ。
 ぼくは息子に聴いた。
 東北で滅ぼされたアイヌの英雄は誰だ? 
 息子は即座に「アテルイ」と正しく答えた。
 妻は、なんでそんなことを知っているのよ、私は全然聴いたこともないよ、と怒りを募らせる。
 息子は、坂上田村麻呂のことも知っていた。
 それらのことが熊谷達也まほろばの疾風』という我が家の書棚にある本に書かれており、息子は小学生時代からその本を読んではいないけれど、ページをぱらぱらめくることによって、アテルイのことが書かれた本だということに気づいている、とぼくは妻に教える。
 本に書かれていようが何だろうが、そんな重要なことを教えてくれなかったよ、学校は。
 妻の主張もわからないではない。
 坂上田村麻呂征夷大将軍だったかもしれないが、彼がアテルイという蝦夷の英雄を血祭りに挙げ、東北でのホロコーストの指揮を取ったこと、征夷大将軍の「征夷」の意味が、「蝦夷を討つ」であったことなどは、実際のところ、授業で教えてもらった記憶はない。
 日本は維新のときに、薩長の手に落ちた。反骨の団塊世代小説家である矢作俊彦は、自分は薩長に征服された国に暮らす在日日本人だ、と痛烈な皮肉を言う。薩長は日本を征服し、日本文化を根こそぎ駄目にしたから、彼らに領土を取られた状態で我ら日本人は敗戦国の文化を生きるよう強いられている、と主張するのである(『新ニッポン百景』参照のこと)。
 そこまで過激ではないが、もしかしたら、日本のエスタブリッシュメントに属する人々(つまり日本に対し戦争を仕掛けまんまと日本を占領した側の人たちの方ですね)は、そういう都合の悪いことを、東日本の蝦夷の血を引くかもしれない人には、教えてくれないのではないか。弥生文化縄文文化を滅ぼした記憶なのだ。下手に、その血を騒がせることなく、巧く治世しようじゃないか、というシンプルな考えもあってのことなのかもしれない。
 でも血は簡単に薄まりやしない。東北より北には、蝦夷の歴史や文化が大量に残されている。だから、北日本の人は、アテルイシャクシャインのようなアイヌの英雄の話を聞きかじることだって、西日本の人々に較べて相当にあるのかもしれない。いや、シャクシャインは江戸時代の英雄だからまだしも有名過ぎる。しかしアテルイとなれば、あまりに古すぎて(何せ大和時代のことだから……)、テレビやドラマや映画でも、本当に取り上げられることが滅多にない。
 多分ここが北海道でなければ、うちの子がアテルイのことを知ることはなかったのかもしれない。ぼくたちの時代に誰も関東ではアテルイのことを教えてくれなかったように。ぼくでさえ『まほろばの疾風』に出遭うことがなければ、一生アテルイの存在なんて知らずに終ってしまったのかもしれない。
 妻は、思想なんてどうでもいいという。本当にあったことだけをしっかりと子供たちに教えるべきだ、自分たちは日本人なのだから、となおも怒り続けるのであった。

 まほろばの疾風 まほろばの疾風 asin:4087752739