ヒストリー・オブ・バイオレンス
デイヴィッド・クローネンバーグの最近の映画なんて全然見ていなかった。それこそ「戦慄の絆」を最後に遠ざかっていた。だからこの映画、いきなりのショッキングなスタートからぐいぐいと引き込まれつつも、カメラワークの鋭さと、絵画のように重厚な表現力に、ああクローネンバーグは健在なんだと、しみじみ味わうことが楽しく幸福であった。
一流の上手い役者陣を揃え、いぶし銀のような演技の中に、凄まじいまでの暴力シーンを挟み込み、日常が非日常へと滑り込んでゆく不安定な様子、それによって壊れかける家族との絆、「デッドゾーン」のときのように自己否定を余儀なくされる主人公の孤独な苦悩などが、最後の最後まで心を引きつける。シンプルなストーリー構成だが、ある方向性を持ち、その中で深く深く悩める者たちのそれぞれの対話のあり方を求めたような、乖離と救済の物語であった。