ガラスのむこうの小樽
久々に小樽に出かける。
運河倉庫に沿った観光道路では、真っ黒に焼けた人力車の若者たちが、観光客の女性たちと会話をしている。料金はいくらなんだろう。
昼食をファミレスで取る。ガラスの向うにオルゴール堂があって、おいしそうなケーキ店が舗道に面したテラスにテーブルを並べていて、その白さが初夏の光を反射している。
ファミレスの中には、ジャージ姿の親子連れ、背広姿のビジネスマンが多い。巷は観光客で溢れ返っているというのに、店内の、どこにも観光客は見当たらない。
「もちろん観光客は情報を仕入れて美味しい店を目指すんだよ」ぼくは仕事の連れに言う。「ビジネスマンは小樽を通り抜けて仕事をするだけだから、美味しい店を知る機会もない。歩いて紅茶やガラス細工を物色する意欲もない。ただこの国道を時速60キロで通過して、また札幌に帰ってゆくだけだ」
ガラスのこちらには仕事の日々。ガラスの向うには、修学旅行生やチャリダーやおめかしした若いカップル、品のいい夫婦、といった人たちが通り過ぎて行き、そこには夢と光の街・小樽が、古きよき時代を忍ばせて、陽だまりにそっと美しく佇んでいるのである。