シュンの日記なページ

当別町スウェーデンヒルズ移住者 ブックレビュー 悪性リンパ腫闘病中 当別オジサンバンドOJB&DUOユニットRIOのVocal&Guitarist ツアーコンダクター 写真 スキー 山 田舎暮らし 薪ストーブ

心の砕ける音

 これは、トマス・H・クックの小説のタイトルだけれど、最近この音が、ぼくの周辺でよく聴こえるようになった。

 ちょっとばかり業績が悪くなると、企業は上から下まで、今までになかったプレッシャーを相互にやりとりするようになり、先行き不安を覚える人が増えてゆく。職場の空気はいやでも緊張感がみなぎってゆき、思考はネガティブの傾向を辿り、結果的に全体の空気が重たくなる。要するに、人心が乱れるというやつだ。

 管理職として社員のメンタル・ヘルスについて学ぶため、臨床心理士の講義を受けたときに、三十代未満の社員は、物のない時代に育った四十代以上の社員の物差しでは決して計ることのできない心の脆さを持っている、と教えられた。

 最近、一対一かそれに近い機会のなかで、三人ほどの部下から、それぞれ別々に心を病んでいるという事実を打ち明けられた。一人は自殺を考えるほどのうつ病に悩まされ、一人は人間関係のストレスから円形脱毛症となってカウンセラー通いを始めた。もう一人はやはり周囲の人間関係の緊張から、パニック症候群に陥って突然の体調異変を何度も経験し今も通院している。職場では絶対に見せることのなかったそうした内面の弱さを、最近ぼくは続けざまに打ち明けられた。とても深刻に。

 誰にも相談できない悩みを抱え込んでいた若者たちの声に耳を傾け、ぼくとしては精一杯のアドバイスを送り、生きる目的を見出すことに力を貸してあげるように懸命に話しているつもりだが、その効果にあまり期待すべきではないとも実のところ思っている。

 上述の人たちは、誰をとっても群を抜いて仕事ができるタイプだ。男女・年齢・職種など、それぞれに異なるのだが、いずれも、大変に気持ちのこもった仕事をやる。逆に言えば手を抜くことができない人たちなのだ。血液型はいずれもA型である。生真面目で完璧主義者で、頑固で、一見強く、もしくは図々しくさえ見えるはずだ。

 ぼくはここまでの半生を営業職に費やしてきたようなものだが、その分野はいつも、医療・救急・災害・介護と、いわば人を守る仕事ばかりに携わってきた。でも最近ぼくにのしかかっているのは、身近な人たちのこうした心のアンバランスだ。まず真っ先に守らなければならない人間が、すぐそばにこんなにいるということに気づいたのも、実は三ヶ月来の職場挙げての激務が終わろうとしているここ数日のことである。

 それまでに不明であった自分、人間は見えるままの存在ではないというデリカシーを持ち得なかった自分が、悔やまれるが、そうも言ってられない。日々、彼・彼女らと語り合う時間を作り、相談のはけ口になってあげたい。それがどれだけ役に立つかわからない不安の方がはるかに勝っているけれど。