シュンの日記なページ

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ナキウサギ

 エゾナキウサギは今北海道の大雪日高山脈の一部にしか存在しないのだが、もともとは氷河期に大陸から渡ってやってきた生き物だ。恐竜もマンモスも死滅したが、ナキウサギは氷河がなくなってもわずかに氷河期の名残をとどめる北方の高山に生き延びた。今日は、日高の自然を取り上げた番組を観た。幌尻岳周辺の圏谷にある幻の湖とその周囲に棲む生き物の特集だった。四季の氷河地形の圏谷はいつにもまして美しい映像で、ため息が出る。残雪がとけてへこんだところに沼ができるという、穂高で言えば涸沢カールの沼と同じような生成の仕方。涸沢でも七月には雪の下、八月には沼となって空をたたえる高度二千五百メートル沼に、かつてよく遊んだものだ。
 ナキウサギの方は、クワウンナイ川を遡行してトムラウシ山に登頂した折りに、ガレ場の複数地点で鳴く彼らの声を、まるで鳥の声のようだなと思って耳を傾けた。その直後には羆の声に脅されもしたけれど。手つかずの自然だったトムラウシも、ぼくが掬って飲んだ北沼(別名「クマの眼」)も今は日本百名山にリストアップされていたばかりに、中高年登山客のラッシュと、違法キャンプ者たちのおかげで排泄物汚染などがひどくなったそうで、あの頃の面影はないと言う。
 ぼくらがそのあたりをうろうろした頃は、本当に誰にも会わなかった。トムラウシの山頂で一時間以上、仲間と二人だけでくつろいだあの午後のことはぼくは忘れない。
 北海道に住んでいて嬉しいのは、ゴールデンタイムにもときどきは北海道の放送局が自前で用意したこのような嬉しい番組を頻繁にやってくれることだ。ぼくの家ではテレビといえば、北海道の紀行、自然、食などをテーマにした番組を圧倒的に選択してしまう。毎日のようにテレビといえば、道内のルポが多いわけだ。以前埼玉に住んでいた頃に、埼玉を特集したテレビ番組をやっていたかと言うと憶えがない。テレビ埼玉埼玉新聞浦和レッズ関連のもの以外とんと興味を憶えなかった。埼玉にもけっこう歩いて楽しい自然は豊富にあったのだが、やはり北海道での圧倒的な手つかずの自然を前にするとインパクトが弱いし、関東の人のニーズも埼玉の自然というところにはあまり向いていない気がする。
 氷河時代から命を紡いでいる小さくて愛くるしい生き物を映像で目にするだけで、下手なドラマやフィルムよリも遥かに巨きなものに触れてしまっている気がした。
 氷のような飛雪が、綿毛になったチングルマの上に吹きつける映像を、日高山塊のまっただなかできっと寒さに震えながら撮り続けたであろうカメラマンたちをちょっぴり気の毒に思い、ちょっぴり羨ましくなってしまった。