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ばらばら死体の夜

 ばらばら死体の夜

 二日前読了。
 桜庭一樹の、ひさびさシリアスものである。この人がシリアスものを書くと、半分ホラーみたいに思える。人間の心が砂漠みたいに読み取りにくく、一夜の風で様相を変え、粒子も分子もばらばらになって、また奇妙な結合を呼び起こす、というような、予測のつかなさは、本書でも相変わらず健在である。およそ健全とは言い難い不健康な小説に対し、健在という言葉がフィットしているのかどうかはともかくとして。
 そしてこの人のシリアスものは得てして恋愛ものではなく、家族ものである気がする。セックスはあってもラブはない。この作家を通じて全編に流れるハードボイルドの気質というようなものが、シリアスな小説ではことさらに強く感じられるのだ。
 本書では、壊れた家族を持つ男と、天涯孤児少女との、全く理不尽な出会いにスタートする。ラブもへったくれもなく、地獄の窯の蓋が開いてしまったというような出逢いであり、その後の肉体交渉の描写にしても、感覚と離反した心の乾き方を見ていても、とてもやはり理不尽としか言いようがない人間関係が続き、そしてそのことに対する解決もなければ、もちろん救いもない。生まれた時から決せられた運命を生きるのが、桜庭ワールドに生まれ死んでゆくヒロインたちに課せられた刑みたいなものである。
 でも、暗くもじとじともしていないから、読者は、その軽くあっさりと進んでゆく、理不尽な悲劇に戸惑いながらも引き込まれてゆく。予測できない物語の未来に対する興味はなかなか元の鞘に納めることができず、抜身の刃のまま風にさらさせてゆくしかない。だからこその読者の側の無防備。そうした関係性を作り出す作者の側の天性のハンティング・スキル。
 桜庭は空手使いだし、文章においても油断がならない。気を付けないと、本当に取って食われそうになる一冊である。