シュンの日記なページ

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毒草と、美味なる野草と

 土曜日だけれど午後スーツを着て出かけなきゃいけない用件が。エアコンの壊れたパジェロで少しした遠出は、この季節では厳しい。昼飯も食い損ね、夕方の帰りとなる。この格好でスーパーの買い物もいやなので、一旦帰宅し、短パン、半袖に着替え、ジンギスカンの材料を買い込んで家でゆったり。
 ビールが進む。発泡酒だけれど。
 そう言えば、スーパーで隣の肥ったおっさんがプレミアムモルツの500缶6本セットを買っているのを横目で見たのだった。そう言えば、先週は350缶のそいつを2本買って二晩の最初にそれでやったけれど、1缶100円の差は大きすぎるので、あれは夢だった、で片付けることにしたのだった。

 鈴蘭

 東直己、畝原シリーズ最新作『鈴蘭』読了。札幌での題材がなくなって書けなくなったんだよ、しばらく東直己がワイドショーのゲストコメンテーターばかりやってちっとも新作を出さなかった時期に、いきつけの酒場のマスターはそう言っていたのだが、その後、ばりばりに復帰した東直己は年間に何作もシリーズ新作をかっ飛ばすようになった。
 この畝原シリーズは私立探偵一家のホームドラマ的要素が強いのだが、本書はそういう畝原にお似合いの二人のおっさんが興味深い存在としてフォーカスされる。
 一人は、定山渓に向う国道を外れ山に入ったところで、小動物公園、キャンプ場、家庭農場、工芸教室、レストラン、ライダーズハウスなどを総合的に纏めたようなファミリー・パークを運営する80歳過ぎの老人。徐々にその正体は明らかになるし、本書だけではないレギュラー・キャラになりそうな深みを持っていて興味深い。
 もう一人はそのパークから一山越えたところで、ゴミ屋敷を形成する変わり者のオヤジである。こちらは札幌清田区の山中で実際に連日報道された困ったちゃんオヤジをモデルにしたものだろう。規模的にも本州のゴミ屋敷と違い、国土や私有地を侵してまで広大な山林内、山道に壁となって進出するものだから最終的な撤去に億の金が動くので、市民はなぜそんなことのために税金を使わねばならないのか、とわが家族を初めとして壮大なブーイングが起こった報道として、札幌市では名高い捕り物であった。
 そんな二人の高齢者を追うのが今回の畝原探偵の主たる業務だ。他に行方不明になった高校教師、さらに行方不明になったゴミの山に同居していた女、と畝原はけっこう忙しい。
 さらにこれらを繋いでうきぼりになってくるのが、ホームレスを収容して生活保護を申請し、保護費を抑えて設けようと言う貧民宿なのだが、良心的にボランティアのように経営されている宿と対極に、反社会的集団が凌ぎのために経営している悪辣な宿の存在が、実際にあるものかどうかは不明だが、本書では闇の存在として描かれている。
 ラストシーンは、畝原シリーズらしく、ちょっとばかり心を抉るところがあって素敵だ。タイトルの鈴蘭の由縁は、そこまで辿り着かないと完全には理解できない構造となっている。
 一冊のなかに多くの北海道的、あるいは全国的規模の経済的な題材が多く扱われている。東直己がこれほど社会参加意識の高い作家だとは、デビュー作あたりでは、多くの読者が全然想像もできなかったに違いない。
 ちなみに鈴蘭は毒草で、ギョウジャニンニク(=アイヌネギ)とは葉っぱがよく似ている。
 本書ではアイヌネギをジンギスカンに投入して食べるシーンが出てくるが、これは本当に美味しい。
 でもアイヌネギは、ニンニクよりもずっと匂いが強いので、翌日の予定を見ながら食べなきゃならない野草である。それに、雪解けの頃にしか獲れない。醤油漬けにして土産物屋などで売られているが、こいつの汁が万能で素晴らしいのである。