山仲間を見舞う
千駄木で降りて、根津へと歩く。途中、坂の多い裏道を楽しみながら歩く。
根津神社で、病魔と闘う山仲間の無事を記念してから病院の見舞い口をくぐる。
山の少し後輩のT君は、放射線治療の影響で丸坊主になってボトルシップを作っていた。六ヶ月もの入院なので何か暇つぶしのネタを見つけねばと思ったのらしい。完成したボトルシップを見て感心した。
その後、大学時代の8ミリフィルムをDVDに起こしたものを持ってきたので、一緒に見た。T君が滝谷四尾根を登攀している姿や、春の涸沢カールを山スキーで滑り降りてゆく姿がフィルムに残っていて、その映像の綺麗さに改めて彼は嘆息する。
白血病である。ドナーが決まっており、3月以降に移植がある。今は癌細胞を放射線により攻撃しているところだ。
いろいろな話をして二時間。いつまででもいてあげられるのだが、夕飯が運び込まれたので、再来を約束して立ち上がる。治ったら、皆でこの8ミリを見ながら呑もうよ、とか、ゴルフに行こうよとか、そんな約束もいっぱいした。
病と闘う仲間の姿を後ろにするとたまらなく切ないものを感じる。彼のほうはもっとずっと強くそれを感じているに違いない。日々の一分一秒の時間にさえそれを。
病棟の窓から夕陽を見た。いい場所だね、このあたりは。そんな会話をした。
今日撮った写真を下に並べておこう。
坂を上りきると藪下通りに出る。下の案内版の通り森鴎外の散歩道だったらしいが、正面の森鴎外記念室はあいにく休館となっていた。
藪下通りの名の通り、山の中腹の巻き道のようである。見上げる小さな坂は東京とは思えぬ田舎の風景。濃い陰影を見せる藪越しに、今日訪れる日本医大本院が高い空を眩く区切っている。
中腹に白い猫が蹲るこの辺りは木々に囲まれている。新しいマンションと蔦の絡まる旧家とが隣り合っている不思議な風景だ。
夏目踪跡旧居跡とのことだが、痕跡は残していない。しかしそれにしても文豪の町である。
根津神社。長寿を祈願する神社らしいと道行く人が言う。見舞いにはちょうどいいか。赤ちゃんや子供をつれた親子が目立つ。若いカップルも。安産祈願か。産んでからのすくすくと育って欲しいとの祈願か。少なくとも命の永らえを祈願するところに間違いはあるまい。