古めかしいXマス・プレゼント
ヨーカドーのようなところを探しても求めるものは売っていなかった。書店と文具屋を兼ねる店を目指すと、キーをかけられたガラスケースのなかにそれはあった。どれもがぼくにとっては高額の値札を垂らしている。ああ、こういうものだったっけ。
店の照明を眩いばかりに反映させて、万年筆たちはしっかりとその格別な存在価値を内から示しているかに見えた。
店長、と店員が呼び、キーを外してもらうのを待って、ガラスケースのなかの存在感たちと向かい合う。
万年筆はどれも高価であり、贈り物として使うものとしては3万円相当のものが相応しいように思える。
定価売りである。
ヤング向けの万年筆という、デザイン的にはイマイチだが、地味な黒色をたたえ、Gペンのような形のペン先が鋭く光っている部分は申し分ない。財布と相談してこれに決めた。出張費の浮いた分のへそくりのようなものだ。家族内プレゼントに、共有する預金から引き落とされるカードは使えない。
書き物の多い仕事を抱えている家内には、赤・黒のボールペンとシャープペンが一体化されたシックな色彩と形状のペンを選ぶ。もちろん万年筆ほどには高額ではないけれど、大事にしてもらえるほどの商品であり、保証書もついている。
夕餉は、クリスマスツリーもケーキも姿を消したけれど、チキンや赤ワインやサーモン・サラダといったいわばご馳走。その席でクリスマスらしくプレゼントを出すと、家族のなかでほっと喜びの表情が湧く。もらう方よりもこうした表情を眼にする贈り手の方が幸せかもしれない。プレゼントはとても古めかしいものだとは思ったのだけれど、この時代の中学三年生に万年筆。このサジェスチョンを与えてくれた雫井脩介の作品『クローズド・ノート』に感謝しなければいけないかもしれない。
ささやかなぼくの家の一瞬のクリスマス・イブである。