ラーメンライス
「ラーメンライスなんて注文は何だか懐かしいねえ」と店主が言う。
入ってきた老人は、ラーメンライスと注文を告げたあと、その後自分の函館での三ヶ月間のことを語り始めた。カウンターでの客は他にぼく独りだ。ぼくは老人の眼を見て、彼の言葉に肯き始める。聴き役っていうやつだ。
老人は函館生まれ。三ヶ月前に同じ函館出身の老妻を伴って、自家用車を転がして、フェリーで海を渡り、故郷に帰ってきた。定年退職後の退職金500万円を握り締めて、函館のビジネスホテルで生活を始めたが、一ヶ月前に老妻は病死した。
老人は部屋をシングルに替え、パチンコ屋で昼の時間を埋めてゆく。持ち合わせは今日現在で残り35万円というところまで切り崩してしまった。
ただ、それだけの話であるが、一ヵ月後に彼がどう生きてゆくのかはわからない。
屋台村の光景である。