テルマ・アンド・ルイーズ/70年代へのオマージュ
BSでやっていたので、ひさびさに『テルマ・アンド・ルイーズ』にうっとりと心を奪いつくされた。ジーナ・デイヴィスの過激な魅力に奪いつくされたということもあるけれど、何よりも、監督リドリー・スコットの重心が70年代のアメリカン・ニューシネマに置かれ、何もかもがこのあたりを中心に構成されているところが凄い。
若き日のスピルバーグが作った『続・激突カージャック』の、荒野に似つかわしくないほどのパトカーの群れ。あるいはテキサスを駆け抜ける逃走車のイメージである『バニシング・ポイント』。二人が覚悟する最後のシーンは『明日に向かって撃て』であり、彼らの遅過ぎた青春の破滅は『俺たちに明日はない』。ロード・ムーヴィーの面目躍如たる『スケアクロー』、光る地平線は『コンボイ』であり、まっすぐな道は『イージー・ライダー』そのものだ。
ノワールという言葉までが似つかわしい、破滅へのストレート・ロード。『Uターン』とカプリングで観たくなる今や昔の大画面で見るに似つかわしい、南西部暗黒ムーヴィー。
華麗なパスとシュートの奇跡的な組み合わせが劇的なゴールを生み出すように、素晴らしい監督と素晴らしい俳優たち、アメリカ映画でなくては作り出せないワイルドな光景のもと、アメリカの生んだストレスと暴力が、70年代アメリカン・ニューシネマの重心を二十年後に実現して、作り出した、あまりにも華麗で奇跡的なロード・ムーヴィー。それがこの映画だと思うと、何とも味わい深い一瞬一瞬であるのだった。
まさに、魂をくすぐられる映画だ。